恋文よ、届け。
今日は、ラブレターの日らしい。
僕のやってる商売は、今の日本で一番金にならない商売です。
その上、僕自身もろくに金はありません。
ですから、生活の程度からいえば、何時までたってても知れたものです。
それから僕は、からだもあたまも、あまり上等には出来上がっていません。
あたまの方は、それでもまだ少しは自信があります。
うちには、父、母、伯母と、としよりが三人います。
それでよければ来て下さい。理由は一つしかありません。
僕は文ちゃんが好きです。
それだけでよければ来て下さい。
芥川龍之介がのちの妻となる塚本文に送ったラブレターだ。
今や、恋文を手書きで書く人は少ない。
SNSが普及し、LINEなどで『好きだ』という思いを羅列する。
既読がつけば、相手は読んでくれたと嬉しくなり、返信に一喜一憂する。
それがいいのか悪いのかは私には分からない。
私は人生で一度だけ、ラブレターを書いたことがある。
小学校6年生の頃だ。
私は中学で宮城に転校することが決まっており、想いを伝えなければ!と思っていた。
いざ鉛筆を手に持つと、一言目が浮かばない。
こんにちは
今日はいい天気ですね
突然すみません
何が正解なのか分からない。
結果、一言目は『あなたのことが好きです』と書いた。
そのあとは、いつから好きだっただの、どこが好きだの書き連ねた。
書き終えた頃には、便箋3枚分も書いていた。
それをいつ渡そうかと考えていたら、あっとゆう間に卒業式を迎えていまった。
結局恋文があの人に届くことはなかった。
今は送信ボタンひとつで伝えられてしまう。
便利になったなと思う。
もしかしたら、これを読んでいるあなたはラブレターを書いている最中かもしれない。
もしそうならば、あなたにひとつだけ伝えたい。
大好きなあの人へ、恋文よ、届け。